「僕の妹は漢字が読める」読了

読了。最初数ページを読んだ時にはイマイチかと思いましたが、通して読むとラノベ特有の旨味ばかりをふんだんに、実にアクロバティクなバランスでまとめあげた良作、と思いました。


(以下、ネタバレを含みます)


友人は「最後が残念だ」と言っていたのですが、私はむしろ最初との対*1から言えば最後は自然です。
最初と最後の対は「23世紀文学を21世紀文体で表現した」というメタ構造を作っており、その中では、例えば多少筋書きに無理が見えたり、展開が急だったりしても「23世紀文学では普通、いやむしろ王道、って言われたら『ですよねー』としか言えない」実に巧妙な仕掛けになっているのです。だってオオガワラ文学を見せつけられた後だとねぇ……これはズルイw
その中に「義妹」「ハーレム」「ロリババア」「時間もの」などなどの要素を硬軟とりまぜて織り込みながらラノベとしては「ラブコメ」のお題をクリアし、ついでに表現の問題を実にユニークに掘り下げています。


表現の問題に対する掘り下げは、皮肉としてユニークというのは第一感で、上記メタ構造を踏まえて作品を捉えると、これは普通に「21世紀にやってきたギンがクロハの手を借りて発表した作品」として「未来への方向を訴える」パターンを想起させます。
また逆に「23世紀にギン先生が発表した『おにあか』誕生秘話をネタにした王道の23世紀文学」が「漢字復興運動の流れで21世紀風にして発表された*2」というパターンもありえます。これは面白い。実に色々と考えさせられます。


そんなわけでぶっとんだ出だしで話題を読んだ本作ですが、全体を通して読むと実に面白い*3作品になっていました。オススメ。


あ、一点、個人的に難を付けさせてもらえるのであれば「21世紀と23世紀とでは口語はそれほど変化していない」というのはもっと早くに明らかにするべきです。そうでないと分かりません。
そしてその点が明らかでないと……きっと私のように口語も同じぐらい破綻していると誤解*4し、ページを戻って

「ふみゅ? こんにちわ」
「うんうん うん?」
「ふみゅふみゅ」
「でんわひづけ◎」
「なのなのかー?」
「せんせい でたひと?」

のような感じかなぁ、など適当に訳を考え、後しばらくギンの台詞を逐次23世紀語に脳内変換しながら読み進めるような無駄な苦労をする人が後を絶たないでしょう。
「『美人』の23世紀語は何だろう?」なんてあたり、「これは実は直接『すき』と言ってしまっているんじゃないか?」と数分間妄想してしまうこと請け合いです。

*1:あるいは彼はこの小説が「僕の妹は漢字が読める」から始まっていると理解しているのかもしれませんが

*2:23世紀文学に親しんだ読者に馴染みのある作品で、かつ、「いろいろなものがあっていいじゃないか。ものを創る。その熱意に貴賤はない」と(いうようなことが)書かれているのだから白羽の矢も立つというものでしょう

*3:興味深いという意味で。もちろんネタもたくさんバラまかれていますがw

*4:私は柚との会話の「ギンさん、かわいい」のあたりで『んー? ……そうか、口語も同じぐらい破綻しているから柚視点だと高校生ぐらいの男が幼児語を話していて、クロハがまっとうに話しているような感じになるのか』と独り合点しました