こっちにも弾が飛んできたので反論してみる

まあ、悪いのは毎日新聞の見出しなんですけどね。
残念ながら、産経新聞以外のウェブサイトは過去記事を抹殺して無かった事にするようなので、毎日新聞の該当の記事から要点をそのまま引用します。

 時給2万990円は高い?安い? 社会保険庁の新たなオンラインシステム構築業務で、民間企業への外注経費として、技術者1人につき1時間で最高2万990円を計上したことが5日の衆院予算委員会で取り上げられ、川内博史氏(民主)は「高過ぎるのではないか」と疑念を呈した。

「時給」が 2 万であれば確かに高いですね。しかし、「外注経費」がとなっているのに「時給」と見出しをふるのは日本語が間違っている事に誰も気付かなかったのか、そうでなければ意図的に煽ってるのか、ですね。どういうつもりなんですか?
会社対国の契約ですよね? 個人に全額行くわけじゃないですよね?? ピンハネの無い素敵な会社があるのであれば是非とも紹介して頂きたいので連絡を下さい(笑)


それだけではあれなので、この「主席研究員」、本当の「時給」を計算してみましょうか?
「オンラインシステム構築業務」という事は受注開発だと思いますが、これを参考に人件費率 45% とすると、まず、この方にかかる「人件費」は 9,446 円となります。「人件費」には賞与分、社保・労保の会社負担分、交通費が全部乗ってますからこれを降ろして行かないといけません。まず賞与を 2 ヶ月分ずつ夏冬 4 ヶ月分だったと仮定すると、元の額を時給相当に戻すには 12/16 にする必要がありますね。これで 7084 円。次に保険料周りですが、ざっくりした計算でよく使われる「給与の 14% 分が会社負担」で概算するとしましょう。1.14 倍されて 7084 円ですから、割って戻して 6214 円。
交通費無しで 6200 円。こんなところです。


それでも高い方ですね。いいですねぇ。
しかしこの方、20990 × 8(仮定労働時間)× 20(1ヶ月 20 人日)= 3358400 と、人月 335 万の方であると推察されます。これは超大手企業の役員クラスの人月単価です。……ちなみにそのレベルにしては安い方です(笑)
舛添厚労相の答弁「2万円では安い、ということもある」は、おそらくは感覚として答えただけだと思いますが、実際もその通りであった、と言えます。
ただ、「主任」の人月単価が 256 万と「研究員」の人月単価 211 万というのがちょっと分かりません。大手企業のマネージャークラスがだいたい 150 万〜ぐらいだったはずですので、一般にはあまり出てこない「上級マネージャー」とかいった役員とマネージャーの間のクラスだと思いますが、むしろここが高い気もします。


さて、この予算は妥当なのでしょうか? 「工程管理業務総予算 17 億円」からすると、その超大手企業役員クラスだけでも 40 人も雇えてしまう年間予算。さすがに 1 - 10 - 50 ぐらいの比率(概算 16 億円)だとして、下に 2 人の上流設計担当者と 3 人……は少ないか? のプログラマーがいるとすると……それだけでも 3000 人月を越えてます(汗
もし実際にこの規模の開発だとすると、そりゃ国内でも受けられるのは超大手企業に限られてきますし、そこが役員をトップに据えたチームを作り、社内から人材をかき集めて……ですから、上で計算したような人月単価はおかしくはない数字になってきます。
しかし、ここで疑問を呈するべきはむしろこの開発規模そのものであって、それだけかけて何を作ろうとしているのか? を追及するべきなのです。社会保険庁がらみでこの規模のオンラインシステム……ちょっと何を作ろうとしているのか想像がつきません。というか、作って利益があるものが想像つかない、というのが正しいです。
そりゃどんなものでもシステムにすれば何らかのメリットは出るでしょうが、経費がこれだけになると、期待される効果も大きくなり……一度作ったシステムはメンテナンスで継続的に費用がかかるものですし、正直ペイしないと思うのですが。


時間単価みたいに細かいところを問うよりも、システムの投資対効果を考え、不要なシステム開発を抑える方がずっとど大切なのです。
さっき計算で示したようにこの業界の人件費率(売り上げに占める人件費の割合)は相当な高水準にあります。ほとんど給与に回っていて経費は減らせないんですから、単価下げればほぼ全額給与が減額されます。管理職はべつにいいけど、末端のプログラマーが巻き沿えを喰らうのでやーめーてー(笑)
いや、まあ、受注がなければ全額ロストなのでそっちの方が痛いといえば痛いのですが。役に立たないものを延々とメンテナンスするのは辛いのですよ。


今回の一件、私は今朝、ニュースで知って、「うわっ!? うちの業界に流れ弾が飛んできた!」*1ってびっくりして(笑)帰ってきてから 3 時間ぐらいで調べてまとめたのですが、次の政権を担おうかという政党が、その程度の手間でできる事ができていないのは悲しいですね。
そういえばちょっと前にも定額給付金の論争で「給付の経費が 800 億円もかかる」と批難していました。
私は「民主党のマニュフェストによると政府は無駄だらけで、無駄を省くだけで 10 兆円が財源として使える計算になっている。歳出は 80 兆円規模だから 12% が「無駄な経費」という計算だ。それが「経費全体」が予算の 5% を下回ったなんていうのは予定をはるかに下回るレベルで、ものすごくいい成績だ。そんなところに突っ込んで財源論に突っ込み返されると都合が悪いのに、何でわざわざここに触れてるんだろう?」と疑問に思っていたのですが、実は計算できていなかった?? 民主党は数字に弱かったりします???

*1:まあ、私の勤め先は入札にさえ参加させてもらえてないようなので、別にどうでもいいのですけどね(苦笑)