小泉元首相、引退ですか

って、もう古いニュースですね。おととい触れたかったんですが、忙しかったしまとまらなかったので……今でもまとまっていませんが(汗


元首相も最近は格差を拡大した元凶として叩かれる側に回ってますからね。本人が潮時と判断したといったあたりでしょうか。持ち上げられたり貶められたり大変ですが、これも完全に結果で評価される政治家の宿命でしょう。
折角なのでこの節目に小泉元首相の主な成果を振り返ってみようかと思います。

格差拡大

小泉時代負の遺産」の代表格とも言えるものですが、どこらへんの政策が効いたんでしょうね? 大きなキーワードが「非正規雇用の拡大」みたいなので規制緩和(経済自由化と派遣労働の拡張)あたりでしょうか。


まず、規制緩和による市場開放自体はまだ完成しておらず、その成果が現れていないというのがあるでしょうね。
ここ数年の好景気で得た利益はほとんどが企業の内部留保に回ったと言われています。バブル崩壊の反省がメイン、とは思われますが、TBS の騒動の時にブームのように買収防衛策を相次いで導入していた姿勢を見ると、自己資本を蓄えて株主に対抗する意識もあったのではないかと思われます。
しかし投資機関というのは最も利己的な生き物ですから、事業計画をきちんと説明し利益が上がる事さえ納得させられれば、別に敵ではなくむしろ心強い味方になるわけで、新規事業を興すにも「借り入れ」という手段以上に「株式発行による資金調達」という手段が出てくるわけです。調達できる資金規模が大きく違ってきますよね。
そういう風に利用できれば価値があるはずなのですが、市場開放直後というのは……農地を開拓するとまずは雑草からはびこるように、禿鷹ファンドからきちゃったのが凄く萎縮効果を発揮した感じがします。もっとも、よくよく考えてみればあたり前で、実績の無い=リスクの高いところにまず動くのは投機的な資金であり、その最たるものが禿鷹さんたちですからねぇ。そりゃ最初に来るでしょう。
完成されたシステムというのは一朝一夕で完成されたわけではなく、ましてや社会的なものはその社会でさまざまな対立や変遷を経て安定してそこに存在するようになっているわけです。これをそのままひょいっと持ってくる事はできません。まあ、前例があるので新規に別のものを作るよりははるかに楽でしょうけど……市場開放で最新の市場のシステムを持ってこようにも、すぐに安定して同じように機能するようになるわけではなく、予想以上に手当てが要ったのだけどそこはあんまり考えていなかった、というあたりが実情ではないでしょうか?


この世界的な不景気をよい機会と見做し、海外の会社を株式取得で子会社化し、後継者に「市場の中で経営の舵取りをさせる」経験を積ませる企業が(おそらく)あるはずで、そういった会社のそういった後継者が本社の経営陣に座るようになる頃、小泉時代に始まった日本の市場開放は完成するのでしょう。その時に、利益が内部留保に留まらず、従業員へと還流する形に完成しているなら、成功だったと言えるのではないでしょうか?


正規雇用の拡大も似たような話で、労働組合の力がヨワヨワで労働力の流通(雇用が新卒に偏る)が不自由な日本でそんな事をするから惨劇になるんだよね、という事。もう少し環境を考えましょう。ちなみに現場的には「ゆとり新卒採るぐらいなら派遣の○○さんを正規雇用しようぜっ!」というような話をそこかしこで聞きます。明らかに後者の方が使えるんだけど何故か正規雇用するのって新卒なんですよね。


新自由主義経済についても、今となってはリーマンの破綻を受けて新自由主義も見直される見込みですが、こういうのって後から言える事ですよね。当時は誰も分からない。理屈でダメと分かっていてもダメな方向に突っ走るのは人間の性のようなものですからね。
実際、土地建物なんか、「人口減による購買者数の減少」「収入減による購買力の低下」「おまけにデベロッパの相次ぐ倒産」などなど、不安材料しか見当たらないのに高止まりしていてプチバブル状況です。膨らんでまた弾けそうな予感がしているのですが、世間ではそう思われていないようですね。「マンション価格は駅によって決まる」のが常識とか意味が分かりません。これって本質的には「需給の問題である」(需要があるから高い=購買者数や購買力の寡多に左右されなければおかしい)のをすり替えて、今の価値が恒久的なものであるかのようにみせかけている危険な論法だと思うのですが、そんな事を言っている人を見ないですからねぇ。これは難しい。


ところでこないだまでの日本の好景気って輸出で支えられていたようで、いったい麻生政権の景気対策とかって、額は出ていますが実際にはどうするんでしょうね? 円売りして円安に誘導し輸出を刺激する??
海外の景気はどうにもならないですからねぇ。こうしてみると内需の有難みが出てくるわけで、こっちの方が(ある程度とはいえ)コントロールが利きますものねぇ。もちろんどちらか一方に強く依存するのは良くなく、車の両輪として両方に有る程度ずつ乗っかっているのがいいんでしょうが、このところの内需の低迷は一切ケア無しでしたからねぇ。まあ、これも企業が賃金と雇用を渋ったツケとも言えますが……

郵政民営化

当時もよく分からなかったけど、今でもよく分からない。他にも道路四公団を民営化しているあたり、小さな政府を目指してはいたみたいだけど、NHK の民営化はやらなかった。何でしょうね?
何となく思い当たるのはリストラ効果で、民間で言えば 90 年代に吹き荒れたリストラの嵐のうち、真に不採算部門がある会社は普通に切り捨てればよいのだけど、イマイチというレベルのものであっても切り捨てて社内の空気を引き締めた場合があり、それにあたるのかなぁ、と。「小さな政府」って歴史的には財政が厳しくなると出てくる議論のように見え、個人的にはその経済的な構造よりも、自浄できない組織を解体し再生させる組織向けの効果の方が大きいような気がしてならないのですよ。しばしばまた「大きな政府」へと戻って行ったりするし。
何もなくても自ら引き締まって行く組織であればこんな事必要ないのでしょうが、既得権益は手放し難いものですからねぇ……


私は官民ってバブル崩壊までは同じような社会を築いていた気がするんですよね。酒の席で年寄りの「武勇伝」とか聞いていると特に(笑) 「接待で一晩で 100 万呑んだ」とか、誇張があるにせよ会社の金で随分と贅沢していたんだなぁ、と。
民の方はバブルの傷を癒すため、当然のようにそういった仕組みは排除されたけど、それが官の方にはずっと残ってきた、という話なんじゃないかな? 天下りにせよ居酒屋タクシーにせよ。
そんな状態であるのに「官も全力を尽くしたけど赤字だから増税するぜっ!」って言ったらそっぽを向かれた。あたり前です。というか、利権の放棄に留まらず相当な痛みを伴う改革を行ってきた人達に対して、「余禄とか全然残っているけど増税に OK 出してね」って、そりゃ無理な話。
私も黒字なら何やっててもそんなに気にしないんですが(もちろん最大効率を追求してもらうに越した事はないのですが、黒字出しているのに「余禄もダメ」とか無粋でしょ?)、赤字出して増税するとか言いながら「余禄も残して……」というのは到底許容できないですね。
最大にして最悪の問題は、対策を先送りにしてしまった事で、今、引き締めても「俺たち前任者の尻拭いをさせられているのにその上規制かよっ!」感が強まる事で、20 年前に当事者達が真面目に対応しなかったツケ。とはいえ、断行するしかないのですけどね。


小泉時代には確かに国民負担が増大しました。あれを通すのに必要だったのが会社におけるリストラ相当の作業、各種民営化だったんじゃないかと思えてなりません。あれで官には空気を引き締め、民には努力を示す……という事にしたかったのではないでしょうか? 実際、郵政選挙は「官の既得権益を擁護する抵抗勢力」との対決図で圧勝したわけですしね。まあ、実態がまだまだgdgdっぽく見えるあたり、やっぱり一度「小さな政府」にしないとダメなのかもしれませんが。

北朝鮮拉致問題

「唯一評価されている」とか言われますが、私はあまり評価していません。
以前「しかたがない」と評価した通り、政府の外交能力が信頼できるレベルのものであれば、「大切でないように見せかけて相手の手札化する」、つまり、主たる交渉をミサイル問題・核問題と他国と歩調をあわせ、こちらを「譲れない」と主張する事で米中露韓と完全に協調した包囲網を見せつけ、その切り崩しの手札として切らせる、といった手段が有効だった気がするのですが、政府の外交能力を見るにつけ、正面からのゴリ押しでも仕方がないかなぁ……と。
そして結果として六カ国協議では主導権どころの話ではなくむしろカヤの外。何だかなぁ。


あと、拉致が長引いた結果、被害者の方は北朝鮮内に「生活」が出来ている可能性が高く、つまり……例えば、無国籍のフィリピン人との間に出来た子どもを中学生になってから強制送還するとなると、世論が同情的に「生活がある国籍を与えるべきだ」と言うような話が発生するわけですが、「生活」を作らせちゃったのは最悪でした。拉致は北朝鮮の犯罪ですが、即時に対応しなかった外務省の過失は重く、これを糺していないのがいけてない。

議員の世襲

最後の最後にやらかした感のある世襲ですが、全くそんな感じですね(笑) とはいえ、私としては他の世襲議員より罪は浅いと思っています。
私が世襲議員に強い疑問を持つのは、利権構造を引き継ぐ事で、それも完全に成長期を過ぎた産業と癒着しているケースが最悪です。成長期の産業には、税金を投入して事業をやらせる事になったとしても、その産業が発展し周辺事業が潤う余地が多分にあり、倫理的には真っ黒であっても経済的には大きくプラスに働くものでしょう。多くの「一世」にあたる議員はそうやってきたんでしょうしね。でも安定期に入った産業では収支が悪いし……「公共事業がなければ喰って行けない」ってレベルは完全に持ち出しですよっ!? そうなる前に自立できるように持って行かなきゃどうしょうもないでしょう。そんな産業と癒着して、売上の維持に奔走するような二世・三世議員は完全にアウトです。
小泉元首相に関しては産業との利権構造が見えない。地盤はまああるのでしょうが……どことくっついているんでしょうね? といった感じなので、世襲されてもそんなに気にならないです。「地盤」資産より「名声」資産の方が大きく、それは継承できないだろうから、というのもありますけどね。

総論

色々と問題がありますが、評価を確定するには時機尚早な気もします。何しろあれだけ長期に渡り政権を維持した為政者ですから、影響範囲も広く、長いでしょう。当然、ある程度時代が過ぎないと評価されないところも出てくるでしょう。
ただ、幾つかの改革傾向の政策は埋め戻される可能性が高く、その結果、評価が下がるところがあるでしょう。もちろん成果がプラスになるとは限らないので、結果どちらが良かったかは難しいでしょうけど、もったいないと思うところもあります。単純に埋め戻すのではなく、(でも現状維持は勘弁して欲しいので)改善される事を願っています。


普段むしろ「小泉元首相? 私は評価していないですよ」とか言っているのに、その割には随分と擁護してしまった気がします。まあ、最後ですからね。
本当に長い期間に渡って国政を執って頂いたわけで、大変な苦労だったと思います。初期の写真から見ると圧倒的に白髪が増えてますし……お疲れさまでした。