オリジナルとブランディング

生存報告。仕事が忙しい上に、MMD 杯動画のおおさときたらっ!(ぇ
で、軽いネタを、と思っていたのですが、今、割と重い着想が脳内にわだかまっているので、書き散らします。どうでもいい人は「戻る」と幸せになれるかもしれません。

概要

Original という単語が、今では元の意味を離れすぎてしまっているのではないか? という気持ちが以前からあって、ちょうど pixiv の騒動があったあたりで少し深く考えてみました。ざっと辞書をさらいながら考えたのですが、本来の意味としては「最初」や「始源」であったっぽいものが、いまや「新奇」の意味が強く使われているのかもしれないと思いました。
まあ、言語の意味が変化するのはよくある事だし、と放置していたのですが、先週末あたり、デザイナー奥山さんの講演の記事http://gigazine.net/news/20110908_moonshot_design_cedec2011/や中国自動車市場の記事http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/21149を読んでいて、ブランディングのためには一度、本来の「Original」を見直し、そこを意識する必要があるように思いました。

オリジナルの Original

始源とか最初とか言っても、そんな「元」は幾つも無いし、そんな事言っていたら「Original」なんて存在しない、いや、あったとしても今、新たに生まれては来ないんじゃないか? 議論はまあ昔からあります。で、「だから新しさがあればいいんだ」というような感じで、とにかく「新しさ」が「オリジナル」の中心的な意味となっている、そんな感じがあります。
ただ、私の感覚としてはそれでは足りない。それは Unique と何が違うのだろう? という疑問があり、ちょっとこの違和感を突き詰めてみました。それで、Original とは「コピー元」「波及元」、つまり影響の中心であり、周辺にその影響を受けた諸々が存在してはじめて Original なんじゃないか、と納得しました。

Original は凄くない

どういう事かと言うと、Unique というのは、それが程度が低いものの間は「突拍子も無い」とか「珍奇な」といった感じですが、高度に研ぎ澄まされた、例えば演奏技術などに付ける場合「余人にはマネのできない」という意味合いが入ってくるんですね。一方の Original といえば、対比として複製、模造、模倣がついて回る印象があります。
この流れで考えるれば、Original は幾つでもあって良くなります。例えば「人間の Original、起源」と言う時に、何も原生生物まで遡らなくても、原人であってもいいし、アデロバシレウス*1でもいいわけです。それらは立派にひとつのカテゴリを成立させた起源です。

オリジナルの成功

とはいえ、そんな Original は「売れない」でしょう。確かに原典としての価値は高いですし、影響も大きいのですが、どこまで行っても 1 つの作品、1 つの商材です。こんな Original に固執していては、その商材が多くのユーザーに買われてしまった時点でおしまい、先がありません。そもそも Original は滅多に生まれませんしね。
一方、オリジナルを「新しさ」と考えれば、とにかく新しいものを作り続ける必要があるのですから、継続的に消費を刺激して経済を回していく事ができます。現代の音楽、出版などの業界は、まぐれの Original に期待して企業経営はできない、モノを売らないと立ち行かないその構造から、こちらの考えを取るのが合っているでしょう。

オリジナルの失敗

オリジナル=新しい はうまく行っているようにも見えます。私たちは毎年毎月毎クール、新作ゲームに新作アニメ、新譜と十分な量のコンテンツに囲まれて幸せに暮らしていますから。……ホントウに?
奥山さんの講演記事や中国自動車市場の記事を読んで衝撃を受けたのは*2、そうして日本がやってきた「オリジナル」競争が、ブランディングに結びついていないっぽい事です。とにかく「新しい」ものへと邁進するために確たる方針を持たせなかった、という意味では、むしろブランディングの妨げになっていた恐れさえあります。
確かにどこのメーカーのゲームを買ってもあまり代わり映えがしません。あるいは愛着のあったブランドが昨今の流行りに日和った挙げ句、マーケティングが意味不明だったり、何故かゲームジャンルが代わっていたり、システムが○○のパクりだったり……失礼しました、迷走し歯痒い思いをする事も多い気がします。
これは長い目で見ればひょっとするとマイナスなのではないでしょうか?

Original の復権

その点、Original はブランディングと非常に相性が良いように見えます。逆説的ですが模造品が横行してこそ「ホンモノ」の価値の高さが示される、ブランド力が高まるという部分さえあるように思います。Apple の魅力的な商品はたくさんの偽物を生み出していますが、「いけてない」と評判のホッケーマウスやコントロール部さえ無かった初代 iPod shuffle の偽物についてはどうですか?
それは「思いつきさえすれば誰でもできる」程度のものでも良く、ただ代わりに「育てているブランドに似合った」ものである必要があります。上記 Apple の失敗作……まあ、失敗作は、しかし同社のブランドを大きく傷付ける事はなかったように思います。他の製品と同じテイスト、同じ思想を感じられればこそでしょう。

Original は凄い

「感じる」とか「似合った」とか、実に感覚的な言葉ですね。感覚です。論述で共感に訴える事はしてはいけませんが、コミュニケーションとしてはアリだと思っています。というか、人間のほとんどは共感でのコミュニケーションを行なっているのではないか、とさえ思っています。
論述のコンテクストはさておき、芸術、音や図像での表現は、作者の意図を共感でもって受け手に伝えるものではないでしょうか? その中心となる部分、作品の主張を「真似したい」「模倣したい」ような形で作れればより伝わりやすいですよね? 実際にそのコピー、派生が(できれば伝えたかった主題も含んだまま)広がっていったら、大成功ではないですか?
そしてまた、「主題」と Original の相性もいいように思います。ドラクエはアクションゲーム主流の時代にあって「全年齢層向けゲーム=時間をかければ誰でもクリアできる」事を意図して設計されたという話があります。RPG にはまさに TRPG のような Original も、コンピューター RPG にも Ultima Wizardry といった Original もありますが、ドラクエはその後 JRPG というカテゴリを確立し、Original となりました。
何らかのモヤモヤした「主題」がある時、特にそれがまだ適切な別の Orginal で表現できない時に考え抜いて作った何かこそ、強力な Original となるのだと思います。

*1:ほ乳類の起源とされる生き物です

*2:他にも色々とあるにはあるのですが、ここではとりあえず