痛い就活入門

ねとらぼ:「右のキャラが、いまいち萌えない理由を3つあげなさい」 - ITmedia NEWS これ、よい求人だと思ったのですが消されているよう*1で残念……。ネットで話題になってクレームがついたか、自力での解答と判断するのが難しくなったかしたのでしょうかね。前者だとすると、さらに残念です。
私も最初、面白半分に「萌えない理由3つ? それなら「(俺の嫁1)じゃないから」「(俺の嫁2)じゃないから」「(俺の嫁3)じゃないから」あたりが面白い回答じゃないの??」などと思ったのですが、よくよく読むとこれが実によい求人である事に気がついて感心したのでエントリーに起こしておきます。

どういう人が欲しいのか?

求人は「欲しい人」というビジョンがあって、それに基づいて行われます。求人のプロセスは基本的に多数の募集者の中からこの「欲しい人」により近い人を絞り込んでいくようになっています。応募する際にはその会社、仕事を理解するだけではなく、この「欲しい人」を見極め、自分が該当するかどうかを見極める必要があります。一方、就職難のこのご時世、処世術として「会社が求める人材像を理解する」部分だけでも行う事は、その後の選考プロセスで優位に立つには必要な事でもあります。
会社側も、採用プロセスを楽にするために「欲しい人」に早く到達したいものです。ですからきちんと「欲しい人」に訴求できているのがよい求人なのです。
今回この求人が「よい求人だ」と思った第一の理由は(関係者が趣味で行った、あるいは話題性だけを求めて行ったというオチでなければ)きちんと「欲しい人」=「サブカルのレポーター、ウェブ製作者ならオタクがいい」と、焦点を絞っているように見えるところです。

問の意図を計る

次に「萌えない理由を3つあげなさい」という設問がこの求人をさらによいものにしています。この問の意図は何でしょう? 改めて業種・職種を考えてみて下さい。「新聞社」=メディアの「レポーター」・「ウェブ製作者」=発信者とあります。つまり、「素材」を「見つけ出し」、「大衆」に「伝達」する仕事です。
どういう事かというと……例えばこのキャラクターのイラストが掲載され、「こんなキャラは萌えない! (俺の嫁1)じゃないし、(俺の嫁2)でもないし、(俺の嫁3)でさえないから」などと書かれていたらどうでしょう? ブログのようなメディアならともかく(許されますよね? ね??)新聞の記事だとしたらクレームが嵐のように飛んでくる、そう思いませんか? ですから、私のような受け狙いの解答ではきっと採用されないでしょう。
おそらくは会社は今回の応募で「オタクの世界を一般人に説明できる」そういう人物を求めているのでしょう。そうすると一件突飛なこの設問は選考プロセスにぴったりとマッチした良い設問である事が見えてきます。会社はこの設問を通して、応募者が独自(オタク)の視点を持っているかどうか? それを伝達する事ができるかどうか? という能力を計る事ができるのですから。


最初に私が「今回の求人がクレームで取り下げられたのなら残念だ」としたのは、今回の求人をこのように高く評価したからなのです。

解を組み立てる

さて、最後に解答についても少し触れてみましょう。これらの条件を踏まえて考えれば、今回の問に、「パースがおかしい」とか、「青一色」といった表層的な部分を述べるだけでは不足と判断されかねません。最善のアプローチは、オタクコミュニティの納得を損なわない範囲でカルチャーを解さない人に説明する、というところに落ち着くのでは無いでしょうか?
そうですね……たとえば以下のような解答はどうでしょう?

右のイラストはオタクの間で「いまいち萌えない」と評判だ。どうしてそのような評価になるのだろうか?


このイラストを見た時の筆者の感想は「初音ミク劣化コピー?」であった*2。青い髪、それも髪型も同じ「ツインテール*3、膝上まで覆う「ニーソックス」、大きく袖口の広がった服……このキャラクターは、今、話題の「初音ミク」をなぞったかのようだ*4
そのため彼女はミクと比べられる事になる。お笑い出身の司会同士が比較されるように、あるいは守備位置の重なる野球選手が比較されるように、似た個性を持った萌えキャラ同士もまた比較される。洋服の細かい画き込みや配色、キャラクターの性格など、オタクは実に細かいところまで比較し優劣を判断するのだが、右のキャラクターは髪の線や洋服の小道具、色数などの点で初音ミクのイラストに明らかに劣っている*5ため、多くのオタクはミクに軍配を上げるだろう。
似たようなキャラクター、それも今有名なキャラクターに負けている事。それがまず第一の理由だろう。


次に彼女の姿勢と表情の問題が挙げられる*6
モデルが立ち姿で全身を見せるように、通常、キャラクターを紹介するイラストは立った状態で提供される。体型や衣装、手に持った小道具や一緒に登場する事の多いマスコットキャラクターなどを伝えるために、だ。それがこのキャラクターは座ってしまっていて、服の衿の全景や靴の様子などが隠れてしまっている。これによりキャラクターの全容を把握し辛くなっているばかりではなく、左右対照になりやすいキャラクターにブローチやヘアピンなどの小道具でアクセントを加える余裕も、少なくしてしまっている。
また、モデルが通常、笑顔で写真に写るように、キャラクターの紹介でも笑顔のイラストが使われる事が多い。それが最も魅力的だからだ。それがこのキャラクターは、どこか呆けているように見える。口元をちょっと笑顔に変えるだけで、数倍マシになるだろう。


目鼻立ちの造形についても触れておこう。萌えキャラのイラストの多くは現実の人間の顔としてはおかしい造形なのだが*7、この目鼻、口の位置はオタクの間でも受けが悪い。「萌えキャラ」にとって顔は一番のキーポイントであり、実際のところ筆者にも萌えない造形でもあるので、萌えない理由の筆頭として挙げたくもなる。
しかし、それでは類似する造形のキャラクターでありながら「萌えキャラ」と呼ばれるキャラクターが存在する事を説明できない。名作アニメ「CLANNAD」のキャラクター「古河渚*8を確認してみよう。極端に大きな瞳と顔の中央に集まった鼻と口、と、顔の造形的な特徴は重なっている。だが「古河渚」は「萌えキャラ」とされている。
古河渚」にあって右のキャラクターに無いものが右のキャラクターを「萌えない」キャラクターにしてしまっているものなわけだが、それはストーリーである。「古河渚」には濃密に描かれたストーリーがあり、彼女の確かな個性があって、それが多くのオタクを惹きつけている、そういうタイプの「萌えキャラ」だ。
誤解される事が多いが、オタクは決してイラストだけを見ているわけではないのだ*9。見た目以外で「萌えキャラ」となるキャラクターも確かに居るのだ。

*1:PDFがリンク切れ&http://www.kobe-np.co.jp/recruit/news/part.htmlから消えています

*2:これっぽちも思っていなくても知名度の高いネタと絡めて書き始めます。最初の方に自分の知っているキーワードが一つも無いと、その先を読んでもらえない可能性が高いように思えるからです

*3:オタクには一般的な用語も理解できない可能性を考慮して呼称表記してみたりします

*4:微塵も思っていなくてもry

*5:それ以前の問題ですが、ここは「導入」と割り切って書いてみます

*6:実はこの2番目の理由をひねりだすのが一番苦しかったですw ツッコミどころは他にもたくさんあるのですが、「萌え絵」との区別がつかない一般的な読者を想定すると……

*7:共感できる事が含まれていないと納得してもらうのが大変なので、むしろ二次元が自然に見えていたとしてもそう書いておきましょう

*8:このキャラクターと比較するならMOON.の頃の絵では? とも思いましたが、その後の解説が理解できる人にしか理解できないものになる恐れがありますので妥協します

*9:力強く主張すると同時に、見た目を「萌えない」理由に挙げる(まっとうな)オタクに反論しておくw